気温が下がり、過ごしやすい季節になってきたせいか、色々と忙しいです。
単純な言い訳にすぎませんが、遅くなっていたウツボの続きについてです。
第68回獣医師国家試験、実地C別冊図59のDの写真はドクウツボではなく、毒がないウツボですから、間違えて勉強しないでねって話の続きです。
Vシステムに搭載されている獣医師国家試験過去問題には、農水省発表(実際は獣医事審議会)の正答が間違っているな、これで勉強しちゃ学生がかわいそうだな、と判断した問題には「こちらが正しいと思いますよ」という感じで訂正を入れています。
もちろん神様ではないので、その訂正が間違っている可能性もありますが、客観的に見て、これはおかしい、まずいでしょという場合には必ずつっこみを入れさせてもらってます。
でも、たいていは「グレー」な判定が多いです。
まあ、百歩譲って正しいと言えなくもないよね、強引に解釈すれば、まあその正答でもありかもね、でもこっちの方が適切だと思うよっていう感じの訂正がグレー判定の問題です。
でも、これはどう考えても間違ってるよ、これはダメだねっていうものは、なるべく農水省に連絡してます。
嫌われるのは承知ですが、獣医学の発展を阻害し、獣医師の信頼を損ねる可能性があるものを看過するほど年をとっていませんので、言いたいことは言います。
例えば、獣医師国家試験出題基準の漢字間違えなどはあまりにも初歩的な漢字変換ミスだったので、この前農水省に連絡してみました。
すぐに「その通りですね」ってメールで返信がきて、今は訂正されたものがダウンロードできるようになっています。
めでたし、めでたし、ってやつですね。
えっ、どんな漢字間違いか知りたいですか?
チェリーアイのところが「第三眼瞼線~」になってただけなんですけどね、なんかローカル鉄道路線みたいでおもしろいことは、おもしろいんですけど、そこは国家試験関係の書類ですから、やっぱり厳密にやらなきゃまずいわけです。
おっと話が脱線しちゃいました。
今回のウツボですが、これはグレー問題ではなく、明らかに「ブラック問題」なんです。
だから看過できません。
はっきりと間違っていると言えるからです。
実はこの問題の写真は「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」からとったウツボの写真なんでです。
インターネットで「ぼうずコンニャク」と検索すれば、すぐヒットすると思うので、みなさんも確認してみてください(サイト内をウツボで検索すれば同じ写真が出てきます)。
ちなみに第68回獣医師国家試験実地C別冊、問59の4枚の写真のうち、3枚はこのインターネットサイトで閲覧できる写真が使われてます。
すごいな、よく気づいたね、なんて誉められると恥ずかしいので正直に種明かししますと、問59のCの右下に「ぼうずコンニャク」って文字がコピーライトマークと一緒に読めるんですから、気づくに決まってます。
つまり、ぼうずコンニャクというインターネットサイトの写真でDの写真は食用のウツボと紹介されているんですから、もうどうしようもないくらい、弁解の余地のない誤りなんですよ。
仮に、このインターネットサイトの写真が誤りで、ドクウツボを食用のウツボとして紹介してたら、それはそれで問題なんでけどね。
また、このサイトの写真を国家試験でお借りしたのは間違いがないので(だって、コピーライトマークがあるんだから)、サイトの内容と反する内容で国家試験問題をつくるのは、著作権法的にちょっと問題のある行為なんですよね。
で、本題はここからなんです。
この誤りはいくつかの問題をはらんでいますので、考えてみましょう。
問題①なぜ不適切問題にならなかったのか?
設問文は「図59-A,B,C,Dの魚を喫食したことにより起こる食中毒の記述として適当なのはどれか」とあります。
A,B,Cの魚を喫食したら中毒になりますが、Dの魚を喫食しても中毒にはなりません。
よって不適切問題とすべきだと考えます(全員正解扱いが妥当じゃないでしょうかね)。
学生Aは「Aの魚は知ってるけど、B,C,Dは知らない。だからAの魚に関する記述で適当な選択肢を選ぼう」と考えて、見事に正解しました。
学生Bは「A,B,C,Dの魚、すべて知らない。わかんないから選択肢は好きな数字を選ぼう」と考えて、見事に不正解となりました。
学生Cは学生Bと同じように考えましたが、偶然に正解の選択肢を選んで見事に正解しました。
学生Dは「Dの魚は知ってるけど、A,B,Cは知らない。だからDの魚に関する記述を選びたいけど、適当な記述がない。困ったなあ」と考え、選びようのない選択肢から強引に選び、見事に不正解となりました。
さて、ここで皆さんに質問です。
上記の学生4人の正誤の結果は、試験として公平だと思いますか?
本来、試験というものは個人の能力をいかに正しく評価できるかを究極の目標にしています。
ちゃんとテスト理論というものがあって、正確に個人の能力を正しく評価する方法を日夜、こつこつ研究しているヒトがいるの知ってましたか?
当たり前ですが、国家試験たるもの、実力がない受験生が偶然合格したり、真に実力のある受験生が不合格になったのでは、試験の意味がなく、国民の皆様に顔向けができません。
上記の4人の学生のうち、本問題に関する実力は学生Aと学生Dはほぼ同じ(1つの魚種を知っている)、学生Bと学生Cもほぼ同じ(すべての魚種がわからない)と考えられます。
にもかかわらず、学生AとCは正解し、学生BとDは不正解となりました。
このような問題では、個人の能力を正しく評価できません。
ですから、不適切な問題となります。
このウツボ問題に対し、言いたいことや、突っ込みたいことは、山ほどありますが、この説明が一番冷静に誰にでも理解していただける、この問題の不適切な点だと思い、面倒くさい説明をしちゃいました。
おかわりいただけましたでしょうか?
問題の写真が誤りである、そしてそのせいで同じ実力の受験生が設問文から正答を正しく導き出すことができていないことを指摘したつもりです。
だから農水省に連絡しました、問題として成立していませんよ、不適切問題にした方がよいんじゃないですかって。
ところが、これを農水省の担当者にお知らせしたところ、あらビックリ!
以下のような返信がきました。
御指摘のあった問題については、先日実施された「獣医事審議会」の場において「正答を導くことが可能」と判断された次第です。恐れ入りますが、審議の詳細については非公表ですので申し上げることができません。何卒御容赦願います。
???意味不明・・・。
農水省と獣医事審議会は、適切な問題の意味をわかっているのでしょうか?
確かに、正答を導くことはある意味可能でしょう。
だって4枚中3枚のいずれかの写真の魚種がわかれば、正答を導き出せるでしょうから。
でも、Dの写真がドクウツボではなく、ウツボだという正しい知識を持っていた実力のある受験生が不正解になるんでは、試験の意味がないんですよ。
ふざけるのも、いいかげんにしろって感じです(怒)。
100%受験生の実力を正しく評価する試験を、おそらく人類はつくれないでしょう。
だからあきらめるのではなく、だからこそ少しでも100%に近づけるよう、努力を続けるんですよ。
受験生の人生がかかってるんだから。
問題②第68回獣医師国家試験の合否判定は正しかったのか?
次の問題点は、このウツボの問題を間違えてしまったせいで、1点足りなくって不合格になった受験生がいた場合、どうするんだという問題です。
試験のデータは事務方である農水省がまとめてるので、調べるのにたいした努力はいらないでしょう。
もし、万が一、このクソ問題のせいで不合格になった受験生がいたらと思うと、かわいそうで仕方ありません。
基本的に過去の判例では、試験の合否に関して法定に訴えても、たいがいが負けてしまいます。
それはグレーな問題の論争が多いからなんですが、この問題の場合はダメですよ。
だって全世界にインターネットで写真が間違ってるってお知らせしてるんだから。
農水省と獣医事審議会は訴えられたら、いったいどうするつもりでしょうか?
問題③国家試験で民間企業の宣伝をしていいのか?
最後の問題は前代未聞(?)の出来事についてです。
国家試験は当たり前ですが、税金が使われている事業です。
その国家試験の問題で、民間企業の宣伝をしてよいのでしょうか?
ステマが問題になっている昨今ですが、ステルスどころか見え見えに、ここまで露骨に、企業の名前を問題文に印刷したら、これはまずいでしょ。
例えばレントゲン写真はエックス線写真、聴診のベルクロ音は細かい断続音と明記するよう、注意するのは常識です。
個人名を安易に使うべきではありませんし、企業名を所見として扱うのも良くないからです(ベルクロはマジックテープの特許で有名なベルクロ社)。
ちなみに仕事柄、薬剤師国家試験や医師国家試験など他の国家試験問題は毎年すべて目を通していますが、企業名などが写り込みそうな写真は、基本的に社名を消す加工を施したうえで、みな問題として使っています。
税金を使って、一部の企業を宣伝するなんて、許されるわけがありません。
ただでさえ、世の中、総理大臣のお友達だから優遇されたんじゃないかと騒ぐんですから。
これ、かなり大きい問題だと思うんですが、みなさんはどう思いますか?
個人的には、文春砲がさく裂してもおかしくないくらい、まずいと思います(笑)。
このウツボ問題の問題点はまだまだあるんですが、他のこともやらなきゃいけないんで、もうやめます。
良い受験生は間違っても、ウツボをドクウツボだと思わないようにしてくださいね!
ウツボはシガテラ毒魚じゃないから。
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