今日は行動学の社会的距離について、です。
専門用語として生活圏、縄張り、逃走距離、臨界距離などがありますので、まずはそれぞれの定義から確認しましょう。
生活圏は文字通り、普段の生活で行動する範囲のことと考えればよいので、簡単ですね。
例えば小学生で考えれば、生活圏は自宅を中心にして、日常で行動する範囲(学校や公園などを含む)となります。
次に縄張りですが、これはテリトリーとも呼ばれ、人間でもそうですが「ここからここは自分たちの範囲なんだぜ」「他の奴は入るなよ」と主張する行動範囲を意味します。
例えば、刑事ドラマや刑事小説でおなじみですが、東京都内は警視庁の管轄(縄張り)で、神奈川県は神奈川県警の管轄(縄張り)なんていのうが、テリトリーのことです。
で、生活圏と縄張りはどっちが大きいかというと、生活圏の方が大きく、それより狭い範囲が縄張りになります。
小学生で考えると縄張りは自宅の敷地内で、生活圏は日常で行動する範囲となります。
警察で考えると、警視庁の警察官がプライベートで神奈川県に遊びに行っても何の問題もありませんが、そこで捜査をすることはできませんので、生活圏は広く、縄張りは狭いことになります。
また、生活圏と縄張りはある程度固定化されたもので、同じ動物種である人間同士で決まる範囲のことだというのも大事です。
自宅の敷地や警視庁の管轄は固定化され、決まっていますし、自宅の敷地や警視庁の管轄は野良猫やハトなどには、そんな範囲知ったこっちゃないってことになります。
一方、逃走距離と臨界距離という用語は、そもそもスイスの動物行動学者のヘディガーが定義した用語で、これは捕食動物と被捕食動物の間で生じる範囲となります。
簡単に言うと、食う、食われるの関係性がある時に生じる範囲なので、違う動物種の間で生じる範囲ということですね。
例えば野良猫がいたとしましょう。
小学生が野良猫を撫でようとし、そっと近づくと野良猫はじっと近寄る小学生を見つめますが、ある距離に達すると逃げ出します。
この逃げ出す距離を逃走距離といいます。
ちなみに猫の逃走距離は約2mと言われていますが、多くの人が感覚的に「確かに2mくらい近づくと、猫は逃げちゃったなあ」と覚えていると思います。
小学生が2m以内の距離に入り、逃げられない猫を追い詰めると猫はひっかくなどの反撃にでますが、この逃走が間に合わず反撃に出る距離のことを臨界距離といいます。
つまり逃走距離の方が広く、それより狭い臨界距離に入ったら反撃食らいますよってことです。
また、逃走距離と臨界距離は野良猫を中心とした範囲なので、ある程度固定化された生活圏や縄張りと異なり、野良猫の移動に伴い常に逃走距離と臨界距離も移動します。
では最後に獣医学生で考えてみましょう。
下宿している獣医学生の縄張りは下宿先で、下宿先から大学までの範囲が生活圏となります。
で、「大学の研究室で実験をしていたら、目の前をハエが飛んできたら、びっくりして避けますが、それでも周りをうろついて飛んだら、ハエを叩き落としました」や「自宅でくつろいでいたら、ゴキブリが壁を走り、ギョッとして飛びのいたが、近づいてきたのでゴキブリを叩き潰した」というのが逃走距離と臨界距離です。
簡単ですね。
だから、獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠「動物行動学」98ページ、図9-1は間違っています。
この図では生活圏→逃走距離→縄張り→臨界距離と狭くなっていくのですが、縄張りの外に逃走距離を描くのには無理があります。
そもそも「生活圏と縄張り」と「逃走距離と臨界距離」を一つの図にするのが無理なのですが、まあ、あえて図にすれば「生活圏→縄張り→逃走距離→臨界距離」という順番で狭くなるのが適切でしょう。
獣医学共用試験対策の楽々搭載問題を作問中に気付いたんで、著者に指摘したんですが、誤りはないそうです(トホホ、です)。
きちんと用語を確認すれば、おかしいのは明白だと思うんですけどね。
コアカリって絶対に必要な基礎知識ってことですよね???
そのコアカリの教科書に間違いがあるのは、誰が見てもまずいと思うんですが・・・。
良い子は間違って覚えないようにしましょうね。
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